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"登り優先"ができない理由

樹林帯のなかは特に、木の階段も多い  
樹林帯のなかは特に、木の階段も多い  

 5月下旬、久しぶりのテント山行で、屋久島を白谷雲水峡から淀川登山口へと縦走してきました。

 こちらは13キロほどのボリュームある荷物でかつ登っているときで登山道が狭くてすれ違えないなどというときは、下ってくる人に待って欲しいわけです。あるいは、平坦なところでも、道の状況として確実に相手側のほうが広く、そこで止まってくれるとこちらもすれ違いしやすいというときがあるのです。

 ところが、個人で来ている登山者のかなりの割合の人が、止まってはくれず、仕方なしにこちらはかなり手前でSTOPを余儀なくされたり、足場の悪いところで待機をしないといけなくなりました。これがガイド同行の一行だと全く違いました。9割がたのガイドさんが、早めにすれ違いの困難さに気づき、「登り優先」で待ってくださいました。仮に降りてくるガイド一行のほうが足場が悪くこちらが待っていたとしても、「登り優先なので、先に行ってくださって大丈夫ですよ~」などと声をかけてくださったりもしました。 

 これは別に屋久島に限ったことでなく、アルプスでも、近郊の低山ハイクでもよくあります。特に下りでかなり強引に突っ込んでくる登山者を見たり、そういう場面に遭遇しては、私は腹を立てているわけですが、今回は少し冷静に、「なぜ登り優先ができないか」を考えてみようと思いました。

 

 私が大変お世話になっているガイドさんが「歩行技術」として書かれていたことですが、「まず目で歩くこと」が意識するポイントとありました。「目で歩く」ときのその目線の先は、1つは足元。2つ目は5~10mくらいの少し先。3つ目は地形全体をとらえる遠くの視点。これらを実践することで、目から、①進むべき方向、②周囲の状況、③足場 の情報を得られるとありました。それを本で読んだとき、「!」と思いました。ほとんど意識して考えてこなかったですが、確かに自分自身そうして歩いています。

 一方、お客さまはどうしているか。

 お客さまに普段山で歩くときにどこを見ているかと確認すると、圧倒的に「足元だけ」という答えが多いのです。そのときに私は、「なるほど。これが人に道を譲れない原因か!」と合点がいきました。見ていないものには気づけない。気づくのが遅れる。そりゃそうですね。それから私はガイドのたびに、お客さまには歩くときの視線のもっていき方を説明するようになりました。他のガイドさんの受け売りではありますがー。

 

 足元から遠くへと目線を動かすメリットは他にもあります。先ほど書いた①や②のことで、言い換えると、道の「先読み」ができ、結果、道迷いや事故から身を守ることができる、ということです。

 自動車の運転に関して、JAF(日本自動車連盟)がその機関誌で、「危険予測」の特集を毎号していました。「あなたは今、○○の状況にあります。次に何に注意を払いますか?」このポイントが分からないと、「急に人が飛び出して来て、危うくぶつかりそうになりました」などと言われてしまいます。これと登山における「先読み」は同じだと私は考えます。先読みしているから、分岐に気づける。あるいは、道間違いに気づける。危険個所の手前で止まれる。そして、人や動物の存在に気付ける。

 

 話が少しそれましたが、歩きながら目線を動かすことが非常に大事なことは分かって頂けたかと思います。

 慣れないうちは、足元から目を離す不安があると思います。不安なときは、軽く立ち止まってみれば良いのです。慣れてくれば自然と、あちらこちらに目線を配りながら歩くことができるでしょう。

 

 ”登り優先” あくまで原則。されど原則。一人一人もう少し気配り、目配りしていってもらえたら、そこにいるみんなが、より安全に心地よく歩けるんじゃないかな、と思っています。