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手話通訳について その3:電話通訳

 今年7月1日より、公共インフラとしての電話リレーサービスが始まります。このサービスについてはまた後程述べるとして、「電話」ということを合言葉に、今日は一般的な電話通訳の話をしたいと思います。

 

 私が仕事を始めてまだ2,3年くらい、手話通訳の経験もまだそれほどない時にすごく難しいと感じていたのがこの電話通訳です。

 まず一番難しいところは、電話は相手の顔が見えないということです。

 当時、聞こえる方の多くは手話通訳が今ほど身近にはありませんでした。なので、これまで面識がない人に電話をかけるときに、「手話通訳を介してお話させていただいています」とろう者が説明しても、一瞬間があいて、「あ、はぁ・・」といった対応をされることが普通でした。

 先方はおそらく「通訳を介す」状況を理解できていないと思われ、「はぁ・・」の後には、いつものスピードで話してこられるので、どうしても下手な通訳では遅れてしまいます。そうすると、全く無音な状況が生まれ、怪訝に思った先方が、「もしもし?(聞いています?)」とたたみかけてこられ、ますます焦ってしまって話が途切れがち・・ということになってしまっていました。そう、この、相手と話す「間合い」の取り方が難しいのです。見えていれば、「通訳大変そう」とか「まだ何か終わってないな」とか感じて貰えるのですが、相手も見えないので、状況がつかめないのです。逆にろう者が話しかけるときも難しいのです。手話はまだ終わってなくて言葉を選んでいるとき、「えぇ」とか「そうですねぇ・・」とか上手く何か言葉(音声)を継がないと、無言状態になってしまい、相手は話が終わったと思って話し出してしまいます。そういうわけで、職場のろう者に「電話かけてほしい」と言われたとき、特に手話やろう者についてご存じないだろうなと思われる相手先に掛けるときには妙な緊張感があり、苦手意識ばかりがどんどん増幅していっていました。

 ところがその後自分の通訳の経験値もあがって、通訳する対象のろう者が変わると、その変な緊張感がなくなっていきました。通訳が楽になった大きな理由は、そのろう者が電話のかけ方を知っていたからだと思います。例えば「最初に(社交辞令で)『いつもお世話になっています』という」とか、「今お電話よろしいでしょうか」と聞いてくれるとか、そういったことです。手話を表すときも、いつもより少しゆっくり目で表してくれていましたので、敬語や丁寧語を使わなければならない電話の場面でも間合いが取りやすく、うまく言葉のキャッチボールができるように調整することができました。このおかげで、電話通訳に対する苦手意識が随分軽減されました。今から思えば、貴重な経験をさせてもらったなと思います。 

 「今の若い人は電話のかけ方を知らない」と言われます。携帯電話で「対個人」で話すことが増え、会社や友達の家といった固定電話に掛ける経験が少なくなったためと言われています。電話リレーサービスが始まることによりろう者が電話を掛ける機会が増えれば、もしかすると、改めて手話通訳者養成課程の中に「電話通訳」を教える時間をしっかり組み込む必要性が出てくるのかもしれません。

 

 その他電話通訳では、私は苦手であまりしませんでしたが、受話器を肩と顎のあいだに挟んで手話通訳するという、その無理な姿勢もあって、手話通訳者の職業病「頸肩腕(けいけんわん)障害」になりやすいと言われていました。精神的負担だけでなく肉体的な負担も大きな通訳だったのです。その後電話オペレーターが使うようなヘッドホン(右図)を使えるところが出てきたり、受話器を置いて話せるハンズフリーの性能がよくなったりして、身体的な負担は幾分か軽減されました。その後一時期、携帯電話(ガラケー)が出てきたことで、また電話通訳しにくい状況になってしまいましたが今や、スマホの台頭で、完全に両手フリーにしてスピーカー越しの声で通話できるので、手話通訳者にとっては楽な時代になったなぁと感じています。スマホの台頭と言えば、昔はテレホンカードを持っているろう者が結構いましたね。公衆電話から電話をかけるときは、そのテレホンカードを使って掛けていました。スマホになってからは、ろう者自身の電話で掛けられるようになったので、それはそれで良いことかなと思っています。

 

 電話リレーサービスが始まることにより、ろう者・手話通訳者を取り巻く電話・通信環境がどう変わるのか、とても楽しみなところでもあります。