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登山における鉄則~二つの遭難事例から 

 最近、2つの遭難事例のレポートを目にしました。

 一つは今発行されている雑誌『岳人』の11月号に掲載されている、奈良・大峰山脈で起きた事例です。(写真)

 もう一つは、山と渓谷社のYouTubeチャンネルで公表されている、こちらも大峰山系での遭難事例の検証動画です。

 1件目の遭難について、ニュース等では、道標のつけ方が問題、行政間の連携が取れていないことの弊害かのように言われていました。

 しかし私は、その報道に疑問を感じていました。

 『岳人』の検証記事を読んで、事の詳細が分かり、より一層、道標だけの問題ではないと感じました。

 

 確かに道標に、天川川合方面への案内がないのは、誤誘導する可能性があると思います。しかし自分なら、この「トップリ尾登山口」「明星ケ岳」と書かれた道標が出てきた時点で、地図を見て、あるいは方角を確かめて、進むべき方向を確認すると思うのです。事前に地図を見ていれば、進むべき方向は北と分かっているので、コンパスさえあれば、迷い込んだトップリ尾は西方向なので違う、と気付くはずです。地形の特徴が頭に入っていれば、より確信的に間違いに気付くことができるでしょう。ただしこれは、現在地がおおむね分かっていれば、の話です。その点でいえば、地図を持っていないのに、未知のレンゲ道を選んだのが遭難の第一歩だったのかもしれません。

 

 常々思っていることですが、現地に入ってから地図を広げるのでは遅いのです。GPSで現在地が分かる便利な世の中になりましたが、GPSの画面だけを見ていて山全体を見ていなければ、いとも容易く、迷うのです。山に入る前に、「ここは迷いそう・間違えそう」と思う場所をチェックしておくことが大切です。そして自分が歩くのが尾根なのか谷なのか、これから下るのか、登るのか、トラバースなのか、そういった全体像をまず、把握していることも大事です。そのことで、「おかしいな」に気づくことが出来ます。

 道標や目印のテープを盲信するのも良くありません。特にピンクや赤色のテープ。これを追いかけるようにして歩いている方も見受けられますが、はっきり言ってその方法は間違いです。山中でつけられているテープは、誰がどういう目的でつけたかが分からないものです。登山道の目印とは限らないのです。林業の方が自分の所有地を区分するためにつけているものもあれば、送電の鉄塔に行くための巡視路だったりもします。ただただテープを頼りに猛然と下っていけば、全く現在地が分からない場所に迷い込む可能性は十分にあります。テープはあくまでも、「一応の確認」で見るものです。地図・地形・方角等で現在地と進むべき方向を確認して、その先にテープがあれば、「その方向であっている『だろう』」くらいに考えなければなりません。道標は道案内に役立ちますが、中には間違っているものもあります。やはり、二重・三重に確認する手立ては取りたいところです。その点では、分岐ごとに進むべき道の方角や地形を確認する癖をつけておいた方がよいでしょう。

 

 動画に登場する遭難者本人もおっしゃっていますが、「おかしい」と思ったら、分かるところまで戻るのが鉄則です。「いや、もう少し行けば‥」という心理が働くのも分かります。下ったところを登り返すのは、かなり辛い作業になります。しかし「おかしい」という違和感は大事にしなければなりません。

 

 もう1点、この2つの例に共通していることに、「登山アプリを入れたが、使い方が分からなかった」点が挙げられます。道具というのは、持っただけでは使いものになりません。きちんと説明書を読む、使ってみる、作ってみる、そういう練習をしてこそ、役立つ便利な道具になるのです。また、「練習でできないことは本番ではできない」とよく言われます。本当にその通りです。遭難のような緊急事態、パニックになった状況では、なおさらです。  

 

 YAMAPやヤマレコなど登山アプリの普及で、メジャールートなのか、マイナーなルートなのか、その区別が難しくなってきたように思います。そんな時代だからこそ、地図読み(さらにいうと地形読み)の知識と技術がより求められると感じます。

 

 1件目の遭難事例を報じたNHK奈良放送局の検証記事にも同様のことが書かれていますので、ここにリンクを張っておきます。それぞれの立場の専門家の言葉が参考になります。