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GWの企画を前に

GWが始まりました。

コロナということで、思うように山登りに行けていない人が多いと思いますが、いつものGWなら、この時期の春山に繰り出す方が多いことでしょう。つまり、「残雪期の春山」のアルプスなど高山に行かれる方がきっと多いでしょう。

 

私がなぜ括弧付きで「残雪期の春山」と書いたのか。

それは、「残雪期の春山」は決して「お手軽な楽しい雪山」ではなく、天候が悪ければ一気に冬山並みの厳しい山になり、ピッケル・アイゼンを使いこなせかったり、雪崩に関する知識がなければ、たちまち進退窮まり大変危険な状態に陥るからです。

 

ところが今の時期に発行される雑誌を見ていると、「春の北アルプスで雪山デビュー!」といった文字が良く紙面を飾っています。

 

本来雪山というのは、無雪期の都市近郊低山ハイク→無雪期の1500~2000m級高山登山→無雪期の3000mアルプス級高山登山→積雪期の都市近郊低山ハイクというすべてのステップを踏んで、なおかつガイドの案内もしくは経験者の同行という形で初めて実現し得るものです。ましてや、春山となると、むしろある意味厳冬期の雪山より危険で、天候が良ければ無雪期低山春山くらい、天候が悪ければ厳冬期雪山並みと大きく変わる状況に対応する知識と技術が必要となってきます。

雑誌ではそういうステップが必要であるという説明が一切合切省かれ、なおかつ、「美しく穏やかな春の雪山」しか見せられていません。

これではどうりで、春山、とくにGWあたりの遭難事故が減らないわけだ、と思わず合点してしまいます。

 

登山の雑誌というのは、周りに経験者がいなかったり、単独行をしている登山者にとっては参考書・教科書となりうるものでもあり、とても有用であったりします。その一方で、間違った方向に誘導してしまう危険性があります。「美しく穏やかな春の雪山」の写真を見たら、「デビューって書いてあるし、行ってみよう!」と思っても致し方ないでしょう。

 

でも現実問題、そう甘くありません。

実際に、GWにおける山の遭難事故は相変わらず多いです。

また過去には、私が知っているろう者が二人亡くなっています。

この事故率の高さは本当に悩ましいものです。そういう意味で、登山の雑誌は「罪作りだな」と思わずにいられません。

 

雑誌を見て、「こんな春山に行ってみたい!」と思ったとき、どうか初心者だけでは行かないでください。必ず、「厳冬期の雪山に行ったことのある」経験者と一緒に行ってください。もしそういった人が身近にいなければ、たった一度でいいですから、どうか、ガイドに案内を頼んでください。そこで厳しい春山を経験できたなら、あなたは非常に恵まれています。次にどう行動すべきか、分かってくるはずです。

 

「等高線」でGWに予定している立山では、荒天が予想されています。

立山は雪崩が起きやすく、過去に何度も事故が発生し、大量の尊い命が失われています。今年はそんな事故が起きないことを祈っています。もちろん、私たちも安全第一でお客様をご案内します。いつかお客様が独り立ちするかもしれないことを考えて、お客様に春の雪山の厳しさと楽しさを体験してもらいたいと思っています。

 

※写真は本文とは直接関係ありません。