· 

プレッシャーと緊張

 このところテレビに出る機会が増えているわけですが、そういった手話通訳が終わったあと、あるいは休憩中によくパートナーの手話通訳者から、「細井さん、どうしてそんなに落ち着いてるの??」と言われます。

私も緊張していないわけではないのですが、このところ、絵のような、「不安で押しつぶされそう」な緊張をすることが減りました。

 

なぜかな、と考えてみました。

もちろん、「慣れ」はあります。あと、年を重ねてきたことでの、良い意味での「厚かましさ」もあります。

 

でも一番大きな要因は、自分の通訳に自信が持てるようになったからだと思います。

昔は、通訳が始まる前、特に舞台に立つ通訳の時は、「大丈夫かな。きちんと通訳できるかな。間違ったら目立つよね」そんなことを考えて、ガチガチになっていました。性格的にも、いわゆる「自己肯定感」が低くって、自分の手話通訳が上手いなんて全く思えなくて、もともと小さい表現が、委縮してさらに小さくなって、またそれを指摘されてガチガチになって…という悪循環になっていたのでした。

 

それが変わったのが、5年くらい前のこと。

ちょっと厳しく通訳表現の指導を受けるようになって、「ろう者の理解に届く通訳とは何か」「分かりやすい表現とは何か」を考える機会が増えました。考えながら自分の通訳の癖や、良い表現を真似して取り入れるように意識してきたら、ここ数年、「細井さんの手話が一番分かりやすい」「細井さんの手話好きやわ」と言われることが増えてきたのです。それでやっと、「自分の手話通訳がちゃんと伝わっているし、表現は小さくても分かりやすいと思ってもらってるんだ」と実感できるようになりました。

そうすると今度は、「もっと楽に見てもらえるようにしよう」「音声情報をそのまま受け取っているような通訳にしていこう」と考えるようになりました。そうすると、不思議と緊張することがほとんどなくなりました。

 

要するに昔は、人にどう見られているか、ばかりを気にしていて、自分が何のためにどういう通訳をすべきなのかが、良くわかっていなかったということなのだと思います。今は目の前にいる ろうの人たちに、如何に音声情報を届けるかだけでなく、そこから一歩進んで、その情報をもとに思考を巡らせてもらうこと、知識を深めてもらうこと、議論を深めてもらうことに意識が向いています。その日の通訳をが「うまく出来たかどうか」ではなく、「思うような通訳が出来たかどうか=実力を発揮できたかどうか」を基準に振り返れるようになりました。それは「今日は出来なかった~⤵」というマイナスの考えでなく、「次はどうしたらより良くなるか」を考える、プラス思考に変わったということでもあります。

 

そんなことを考えていた昨日、NHKで、「又吉直樹のヘウレーカ!『大舞台で実力を発揮できますか?』」という番組をやっていて、気になるタイトルにつられて、途中から見ていました。すると、「だよね~!」と納得できる話がいっぱいあって、フムフムフムムムと一人頷いていました。不思議なことに、登山やクライミングにも通じる話もいっぱいありました。

 

放送日1週間は「NHKプラス」でも見られるそうなので、見逃した方はぜひ見てみてください。

 

通訳士になってからもうすぐ20年。ようやく、「一人前」の仲間に入れてもらえるところまで来たのかなー。