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あのドラマから四半世紀(その1)

関東での放送から遅れること1週間、昨日から関西でもドラマ「愛していると言ってくれ」の再放送が始まりました。テレビでしか見られないと思っていたので何としてでも録画するぞ!と意気込んでいたら、「Amazon prime videoでも見られるよ」と知り合いから教えてもらった私はここ数日、パソコンにかじりつきでドラマを見ています。

 

私も手話の世界に飛び込んで長いんですが、このドラマが「四半世紀前のもの」と書かれているレビューを見て現実を突きつけられ、いささかショックを受けていたりします(笑)。

 

それはさておき、FAXでの主人公の二人のやり取りを見て、手話サークルに入ったばかりの、まだ初々しかったころ(❢)のことを様々に思い出しました。

 

 

今は家庭用FAXでもハイテクな複合機になっていて、写真のようなものを持っている人も少なくなったことでしょう。若い人なら、あるいは聞こえる人なら見たこともない人もあるかもしれません。私の実家にはまだ現役で活躍しています。ちなみにこのFAXは普通紙が使えるものですが、その昔は、感熱ロール紙だったので、長期保存できないとか、長文になると巻物のように読まないといけなかったとか、いろいろありましたねぇ。

 

私がFAXを使いだした頃はもう家庭用に普及して当時の価格で5万円くらいだったでしょうか。んー。もうちょっと高かったかな? 普通に手に入るようになっていましたが、出始めたころは、ドラマにあるように、10万円を超える超高級通信機器だったのです。この名残として、いまでも、「日常生活用具」として、行政からお金を出してもらってFAXを購入する制度があるわけです。

また、公衆電話ならぬ、「公衆FAX」という仕組みもありました。ドラマでは、コンビニでFAXを送ってもらっていましたが、これが高かったですね。確か1回の送信で100円だったような記憶があります。コンビニ以外では、駅にも公衆FAXはありました。しかし悪戯が絶えず、しょっちゅう機械が壊されるので、どんどん人の目に触れる場所から奥まった場所へと移動されて、駅長室に置いてあるとか、そんな状況になり、とても使いにくい仕組みになってしまいました。

 

そんな高級な機械なので、持っていても、一家に一台だけ。

大好きな恋人とのやり取りも、家族と一緒に住んでいれば親に兄弟に見られてしまうかもしれないわけです。それに何度もやり取りしたいと思っても、誰かが長電話していたら、そのあいだはFAXは送れないし、受け取りもできない。だからどうしても「今日は!」というときは、FAXの前に陣取る必要がありました。

そうそう、今となっては笑い話ですが、私も、サークルの男友達が飲みに行こうと誘う内容を、冗談で「デートの約束」って書いてきたFAXを送ってきたことがあって、心底焦った記憶があります( ̄▽ ̄;)

でもそれでも、FAXができるまではろう者は、誰かに電話を頼むか、手紙を書くか、直接家に行くかしないと、連絡が取れなかったのですから、革新的な進歩だったはずです。例えばデートの約束をしたけれど、急に仕事が入っていけなくなった、遠方に住む恋人に伝えないといけないけれど手紙では時間的に間に合わないから、やむなく親に電話を頼んだ、という話はいろんな人から聞きました。フルオープンな関係も良いですけど、言ってみれば、ろう者のプライバシーはなかったに等しかったんですよね。

 

それからポケベルが出てきて、その後携帯電話でメールが送れるようになっていき、ろう者の生活は一変しました。誰に頼るでもなく、好きなときに連絡が取れるようになったわけですから。メールが出始めたころは、聞こえる私たちよりろう者の通信環境の方が進んでいた感があったくらいですが、ただメールは届いたか届いていないかが確認できないという不安はありましたし、今訊きたい、今確認したいと思っても、相手がメールを見ていなければ返信を待ち続けなければならず、「即時性」という面では、まだまだ不便でした。それが今や、LINEが出て、ちゃんと届いたかどうかが分かるようになり、音声で話すように、手話で話す通信ができるまでになりました。

 

個人間、プライベートな面では、聞こえる私たちと同様に自由に連絡が取れ、プライバシーも守られるようになったわけですが、社会は依然として、社会のマジョリティの音声通話しかできない仕組みが多く残っています。

(続く)