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手話通訳について

最近手話通訳が注目されるようになってきて、SNSやアップされたYouTube動画へのコメントに、手話通訳に関する疑問・質問が書かれているのを散見しますので、改めて、手話通訳の基本をご説明しようかと思います。

これ以外に何か知りたいなということがありましたら、このblogへ、もしくは問い合わせページからお問い合わせください。どんな内容でも結構です。

 

Q1.手話通訳がなくても、字幕があれば十分じゃないの?

A1.手話通訳「が」必要な方が、一定数いらっしゃいます。別の言い方をすると、日本語の読み書きが苦手な方が一定数いらっしゃいます。

理由は主に次のようなことです

・学齢期に義務教育制度がなかったなど何らかの事情で教育を受けられなかった(ろう学校への就学義務が法的に明記されたのは戦後1947年です)

 

・長らく教育現場では手話が禁止され、口の形を読み発声する「口話(こうわ)教育」が重視されてきたため、正しい日本語の使い方を知る/学ぶことができなかった

 (文部科学省の学習指導要領が改訂され、ろう学校でのコミュニケーション手段

の一つとして手話が認められたのは2009年です)

⇒聞こえない子どもたちが口の形を読みその内容を理解するとともに、聞こえる人と同じように正しく言葉を発音できるようにする「口話教育」は例えば、見えない子どもが、教科書に書かれている墨字を読めるように、また書けるように教育するようなものであり、そもそも方法に無理があります。

⇒子どもが母語である日本語を自然に覚えられるのは、耳から聞いて、それを自分で発声して、その声が自分自身にフィードバックされて、という過程があるからです。聞こえない子どもが日本語を覚えることは、このような方法で自然にできないので、「学習」する必要があります。

 

Q2.手話通訳者が交代するのはなぜ?

A2.精度の高い通訳をするためです。

  手話と音声の間をリアルタイムで通訳する作業は、相当の集中力が必要です。

15分~20分が集中できる限界です。これは記者会見に限らず、医療通訳や

政見放送などの一部を除き、ほとんどの通訳場面でも同様のことが言えます。

交代し待機している通訳者はその間、脳の疲労を回復させます。

専門性の高い内容や、話し手のスピードが速い場合、議論が飛び交うような場

面はより一層負担が強くなるため、10分で交代する場合もあります。

なお、一般的に、1時間程度の講演であれば通訳者は2名で対応しますが、

2時間以上になる場合、あるいはより専門性の高い話題になる場合、先ほどの

説明と重なりますが、負担が強くなるため、通訳者の健康を守り、情報の正確

性を維持する(精度の高い通訳をする)ためには、通訳者を増員する必要があ

ります。

 

Q3.手話通訳者に女性が多いのはなぜ?

A3.手話通訳はボランティアの要素が強く、それだけでは生活していけないため、扶養されている、いわゆる「主婦」がその役割を担ってきた歴史が長いからです。

一つ前の記事でも書きましたが、手話通訳者の大半は、行政が認定する「登録手話通訳者」で、いわゆる有償ボランティアです。行政等に雇用されている手話通訳者でもはほとんどが嘱託であったり、非常勤職員であったり、身分が不安定です。また正職員であっても、財政の豊かではない団体の職員であったりして、給料が安いです。日本はまだまだ、男性が家族を養う、という考えが強いため、男性が進んでこのような職に就くことはまれです。

 

Q4.なぜ話し手のすぐ横で通訳しているの?

A4.両方同時に見られるよう、一つの視野に手話通訳者と話し手(話者)が入る必要があるからです。

 ろう者は手話通訳者の話を聞いて(見て)いるのではありません。聞こえる私たちと同様、話の中身と同時に、話している人がどういう人柄なのか、どういう話し方をするのか、どういう表情をしているのかを知りたいのです。しかし手話通訳も見る必要があります。その二つがあって初めて、情報として成立するわけです。

  一方通訳者にとっても、話者の表情や話し方(イントネーションや声の強弱

等)  をすべてを情報として受け取り、ろう者に伝える必要があります。また記者会見  のように、その場にろう者がおらず画面を通して情報を伝える場合、その会場の囲気をつかみ、その情報も含めて通訳する必要があります。ですので手話通訳にとっても、話者の隣にいること、通訳現場にいることがより精度の高い通訳するためには必要なのです。

 

 ひとまずは、こんなところでしょうか。

 ほかにご質問をいただければ、随時blogにてお答えしていきたいと思います。

 また上記の説明で分からないことがあれば、ご遠慮なくお尋ねください♪