· 

違和感

新型コロナウイルスの問題により、首相官邸や東京都知事の記者会見が相次ぎ、それにともない、そばで通訳する手話通訳者が話題にあがること増えてきました。

最近特に話題になっているのは、「手話通訳者はなぜマスクをしないの?」ですね。

 

(内容をご存知のない方は下記のリンクをご覧ください。

https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000181179.html?fbclid=IwAR2lKga_m2psXq_IQSNjwLYkaVGTqJWhaxF9f3uGgzTwmuPT86bEZQBOBgI

 

コロナに限らず、インフルエンザが蔓延している時期でも、基本的に手話通訳中は手話通訳者はマスクをしません。

 

今日お伝えしたいのは、そのことではありません。

 

今回のコロナ感染を受けて、聴覚障害者当事者団体・手話関係者団体・手話通訳士団体の3団体共同で声明が発表されました。

https://www.jfd.or.jp/2020/03/06/pid20336

要するに、

①感染のリスクの高い手話通訳は、国や行政が責任をもってすべきである

②身分保障のない登録手話通訳者を医療現場に派遣することは適当でない

ということを言いたいのだと、私は理解しました。

 

これを読んでいて、そもそも言いたいことが理解しづらかったのですが、要点が上記2点であるのならば、何か非常に他人事のような言い方で、とても違和感を感じました。

 

なぜ私が違和感を感じたのか。

それは、言っていることが、全く現実的ではないからです。

 

日本の手話通訳はそもそもボランティアからスタートしました。社会の変化に伴い、後付けで、手話通訳に関わる法律や制度が作られてきました。その結果、日常的に手話通訳を行う手話通訳者のほとんどはいまだに「登録手話通訳者」という曖昧な立場におかれています。どこかに雇用されているわけでなく、したがって労働契約を結んでいるわけでもないので、業務中に何か事故が発生しても、「ボランティア保険」でカバーされるのが関の山で、「労災認定」を申請して認められることは非常に厳しい状況です。つまり、事故や病気によって手話通訳ができなくなったとしても、休業補償はありませんし、もちろん通院等にかかる費用は自己負担です。

 

ですから、このような不安定な身分の登録手話通訳者に医療関係の通訳をさせるのでなく、行政に雇用されている手話通訳者が担うべきだ、という話になるのだと思います。

 

しかし、行政に雇用されている手話通訳者が、日本に一体何人いるでしょうか。

例えば私が住んでいる奈良県。39の市町村がありますが、手話通訳者が行政、または委託先の社会福祉協議会等に設置されているのは、10市町程度です。うち一人職場も多く、身分でいうと、正職員はたった1人だけです。現在の高齢社会では手話通訳利用者も高齢者が多く、よって、日々の依頼では医療関係の内容が多いです。その通訳を、この行政に雇用されている手話通訳者のみで担うことは到底無理です。

 

だから、この声明で何が言いたいの? どうしたらいいの?と思ったわけです。

 

このような現状は今に始まったことではありません。「手話通訳士」という国の制度(国家資格ではありません)が始まって30年経っていますが、この30年間、ほとんど状況は変わっていません。最近の「手話言語条例」の制定によって正職員として手話通訳者を採用する行政は出てきていますが、「登録手話通訳者」の身分保障の問題は置き去りにされたままです。一方、この「登録手話通訳」がいなければ、通訳現場が回らないのも現実です。

 

国に様々要望はしています。でも何十年も状況が変わらないなら、作戦の見直しが必要なのではないでしょうか。国が補償してくれないなら、とりあえずは自分たちの力で通訳者を守る仕組みを作れば良いのではないかと思うのですが、その発想はないのでしょうか。

 

手話通訳者はろう者の人権を守るために活動しています。

では、手話通訳者の人権は誰が守ってくれるのでしょうか。

障害者の人権を守れ、と主張するのであれば、一番身近にいるろう者が手話通訳者の人権を守ることにも敏感でいてほしいと思っています。

 

現状に即して、当事者団体が、「我々が、登録手話通訳者も含めて、手話通訳者の健康と命を守る」という声明を出すのが本来なのではないでしょうか。私はそれくらいの気概が欲しかったです。

 

今回の世界的な脅威をきっかけに、手話通訳者を取り巻く環境が少しずつでも改善されていくことを望みます。

そのために、多くの人に、手話通訳者が置かれている現状を知ってほしいと思っています。

 

コメントをお書きください

コメント: 1
  • #1

    匿名手話通訳者 (火曜日, 16 2月 2021 22:18)

    はじめまして。さっそくですが私も同感です。
    この非常事態に手話通訳者は透明マスクで口元が見えるようにという風潮になっていますが、透明マスクはコロナウイルスに対してなんの防御もできません。申し訳ありませんが、私は命をかけてまで、通訳はできません。守るべき家族がいます。ですので、不織布マスクをつけて、とにかく伝わるようにあらゆる表現を使いながら通訳をします。